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コラム

エシカルファッションプランナー 鎌田安里紗さんのEthicalストーリー

日本最大級のリユースデパート、コメ兵のオウンドメディアKÓMERU編集長の坊所が、一般社団法人unisteps共同代表理事の鎌田安里紗さんにエシカルな活動の原点や現在の活動について話を伺いました。

【109のショップ店員からエシカルに興味を持ったきっかけ】

KÓMERU編集長 坊所(以下、坊所):始めに、アパレル業界で活躍されている鎌田さんが今の活動に至るまでにはどんなきっかけがあったか教えて下さい。

話す女性

unisteps共同代表理事 鎌田(以下、鎌田):徳島県出身で高校進学のタイミングで東京へ上京しました。おしゃれが好きだったので109のショップ店員になれたらかっこ良いなというシンプルな思いつきで、週末にアルバイトを始めました。

話す女性

坊所:どのようにしてエシカルに興味を持ちましたか?

鎌田:教育の現場でバナナやコーヒーなどのフェアトレード商品があることを知り、服の生産はどうなっているのか興味を持ちました。色々調べる中で見つけたフェアトレードのパイオニアであるピープルツリーさんのイベントに足を運び、そこでファッション産業には環境負荷や人権問題など様々な課題があることを知りました。

その当時、ちょうどファストファッションが流行り始めた頃で、私が働いていた店でも価格競争で商品の値段を下げなくてはいけない状況でした。働いている実感からも、ファッション産業の置かれている環境に違和感を抱き、モノ作りの現場を訪ねるようになりました。

それまで服がどのように作られているか知らずに販売していましたが、工場で初めてモノ作りの工程を知りました。それがとても面白かったので、この気持ちをお客さんにも伝えたいという思いが強くなっていきました。

話す女性ふたり

【現在の活動:「unisteps」の3つの軸と「服のたね」】

坊所:現在の活動内容を教えて下さい。

鎌田:約10年弱「エシカルファッションプランナー」という肩書きで活動していましたが、2020年から「一般社団法人unisteps」の共同代表理事として主に活動しています。unistepsはサステナブルファッション講座の開催やイベントの企画運営などを行なっています。

三つの軸で事務局をしていて、一つ目は企業や行政とともに産業の仕組み自体をアップデートしていく”ジャパンサステナブルファッションアライアンス”という企業連携の取り組みです。

二つ目は、未来のファッションデザイナーに向けた”ファッションフロンティアプログラム”という学びや作品発表の機会を提供する取り組みです。一説によるとデザインの時点で環境負荷の80%が決まると言われていて、素材選びや構成などデザイナーの意識が変わることで産業全体が変化していくと考えています。

話す女性

創造性と社会的責任は、萎縮したり制約になったり相反するものと捉えられがちですが、どちらも評価することで二つが両立していることが重要だと広めていきたいと思っています。

三つ目は、ファッション業界の透明性や持続可能性を高めるための世界的なキャンペーン”FASHION REVOLUTION”です。2013年にバングラデシュの縫製工場ラナプラザビルが崩壊し、1,100名以上もの衣料労働者が亡くなった事故をきっかけに、ファッション産業の裏側にもっと興味を持とうと消費者がブランドに問いかけます。

unistepsは知識の共有や業界全体が前へ進む後押しとなるイベントを企画運営するなど色々なセクターに働きかけています。

坊所:「服のたね」はどのような活動ですか?

話す女性

鎌田:モノ作りの背景に興味を持ってもらうために個人でitonamiというデニムブランドと共同で始めた企画です。参加者にコットンの種を送り、家で育ててもらいます。

コットンの種が入っている袋

収穫できた綿を集めて生地を作り、最終的に自分が育てた綿入りの製品が手元に届きます。今までにシャツ、スウェット、靴下、スニーカーを作りました。今年はTシャツを作ります。

コットン畑で記念撮影する沢山の人々

「服のたね」スタディーツアーの様子

実際にコットンを育ててみると枯れたり虫が来たり色々なことが起こります。綿製品は当たり前のようにお店に並んでいますが、そこに辿り着くまでの過程が他人事ではなくなります。それに、自分で育てたものは愛着が生まれて永く大事に使うことができると考えています。

コットンを収穫する様子

コットンの収穫

収穫済みのコットン

収穫済みのコットン

坊所:教育の現場でもぜひ取り入れてもらいたい企画ですね。
鎌田さんは作り手側の仕事が多い印象ですがどうでしょうか?

鎌田:作り手側と使い手側を行ったり来たりしています。ファッション産業の中でも繊維メーカーとアパレルメーカーが考えていることは別世界です。科学者や研究者とデザイナーは別次元の職種ですし、ファッションデザイナーと商社では考え方や見えている景色も全然違います。

産業のシステムが変わっていくには相互作用が必要なので、行ったり来たりして伝書鳩みたいに橋渡しをするのが自分の役割だと思っています。

話す女性

【質問は遠慮しない! 心がけているサステナブルAction】

坊所:生活の中で実践しているサステナブルなアクションを教えて下さい。

鎌田: よくPRの依頼をいただきますが、色々教えて下さい、工場を見せて下さいなどの長い文面でその都度返信します。お返事を頂けないことが多いですが、ごく稀に工場や畑まで見学させてくれる会社があります。

何が良いか分からないものをお勧めできないので、できれば現場を見せてもらいたいですね。普段から気になることは企業HPの問い合わせから質問を送ったりもします。その回答からブランド側の姿勢も分かるので質問は遠慮しません。もし返信がなくても、興味がある人がいるという意思表示になると思っています。

坊所:実際の現場を見て印象に残っているエピソードはありますか?

鎌田:紡績工場に行くと、農産物であるコットンを畑で収穫した状態から綺麗にして、紡いで糸にして、人間の工夫はすごいなと思います。

コットンを持つ女性

紡績工場での様子

また、ある化粧品ブランドの自社農園へ行った際は、すぐ隣に工場があり原料を絞って詰めて、まるで料理のようでした。

農園にいる男女ふたり

化粧品ブランドの自社農園での様子

でも洋服も化粧品も店頭に並んでいると均一で人口的で、そこから畑は全く想像できないですよね。

店頭にならぶ商品

都市に暮らしていると自然とのつながりを感じにくいですが、どんなものでも、何かしら地球上で取れたものから作られています。現場へ行って製品になるプロセスを知ることで自然との距離感が変わりました。

【リユースの魅力 次に受け取る人へHappyな状態でつなげよう】

坊所:読者に伝えたいことはありますか?

鎌田:今ファッション産業でニュースになるのは、新素材や新技術が開発された話題です。もちろんワクワクするニュースですが、お直しやリユースのように昔から行われていることは素朴で再度フォーカスされません。でも、リユースはとても意味があるし参加しやすいので、その価値がもっと広まると嬉しいです。

話す女性

坊所:コメ兵ではお客様から買い取ったものを次の方につなぐ役目を”リレーリユース”という言葉で使っています。コメ兵のような二時流通の会社に対してどのような印象をお持ちですか?

鎌田:コメ兵さんやメルカリさんなど色々なシステムが出てきたことで、次の人に渡す方法が多様になり身近で参加しやすくなったと思います。売ることを考えて買う人が増え、物の寿命の考え方が変わりました。使い終わったら捨てるのではなく、もう一回売れるという価値観が定番になったのがすごく良いと思います。

話す女性

リサイクル(原料に戻して再生産する)よりリユース(そのまま再利用する)方がエネルギー効率が良いので、できるだけ服は服、鞄は鞄のまま出回り、最後の最後に使えなくなったらリサイクルという順番を大事にしてほしいです。

Tシャツは難しいかもしれないですが、コートやバッグなどは日々ケアしているだけで寿命が伸びてリユースにつながります。今日からできることは今持っているものを、次に受け取った人がHappyになる状態でキープすることです。綺麗に着る・使うことを心がければ、価値が変わり、売る時に値段も上がります。

物を大事に使うことは自分を大事にすることと一緒だと思います。物も自分もケアしてHappyに行きましょう!

坊所:最後にこの10年間で感じるファッション産業の変化を教えて下さい。

鎌田:これまでサステナブルファッションは産業の外側に社会貢献のオプションのように置かれていましたが、今はビジネスをするための通行許可書のようになっています。10年前とは世界観が全く変わっていて、産業として自分達の中にある課題だと一般化したことはとても大きな変化だと思います。

坊所:とても素敵なお話をありがとうございました!

向き合う女性2名

鎌田安里紗
「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開している。

文:大信田千尋

profile
KÓMERU編集長 五郎部
サムネイル: KÓMERU編集長 五郎部
日本最大級のリユースデパート・コメ兵のオウンドメディア「KÓMERU」の編集長。 賢くオシャレにサステナブルを楽しむ方法を日々発信中。 編集長の傍ら、KOMEHYO SHINJUKU WOMENにも勤務し、若手ながらハイブランドに精通したスタッフとして活躍中。